補助事業の成果

 骨は,外側の皮質骨と呼ばれる硬い部分と,内側の海面骨と呼ばれる網目状の部分とで構成されており,本研究では,加工がより困難である皮質骨を対象とする.この皮質骨は図1に示すように,切り取り厚さによって加工形態が変化することが知られている.切り取り厚さが20μm以下の場合,塑性変形によって流れ型の切りくずを生成するのに対し,切り取り厚さが100μm程度になると,脆性破壊によってき裂型の切りくずを生成する.き裂型切削の比切削抵抗は,流れ型切削と比較して小さくなる傾向にあり,発生する熱量は少なくなると予想される.実際,1刃当たりの送り量を大きくすることで,加工中の温度が下がるという報告がされている.送り量を大きくすることで加工効率と発熱量については改善されるが,き裂の伸展により精度が悪化するという問題が発生する.そこで,この問題を解決するために,骨の加工特性を利用する方法を考える.
図1. 加工形態に対する切り取り厚さの影響

  ドリルに求められる能力として,精度よく円筒形状に仕上げる能力と,効率よく軸方向に掘り進む能力2つが主なものとして挙げられる.前者の能力に関しては,ドリル外周部付近での切削精度を向上させることで達成でき,後者の能力に関しては,外周部以外の部分において,重切削を行うことができる形状とすることで達成できると考えられる.そこで図2に示すような形状のドリルを提案する.提案するドリルは,中心部と外周部とで切れ刃の角度が異なっており,各部での切り取り厚さが変化している.切り取り厚さの大きい中心部では,効率が良く,発熱量の少ないき裂型切削となり,切り取り厚さの小さい外周部では,精度のよい流れ型切削になると考えられる.この提案するドリルを用いて性能評価実験を行った.
図2. 提案ドリル

 性能評価実験を行った.図3に実験系をそれぞれ示す.切削抵抗,切削温度,表面粗さに関して評価を行った.比較対象として同一径の通常のドリルを用い,被削材には牛大腿骨の骨幹部を用いた.
図3. 実験系

 図4に切れ刃全体によって切削が行われているときに,被削材に加わるスラスト力FzおよびトルクMの平均を示す.スラスト力に関して,提案ドリルの方が5〜13%低くなり,トルクに関しては,提案ドリルの方が5~27%大きくなっている.以上のことから,提案するドリル形状では,押し込む力は少なくて済むため,使用者および患者への負荷は軽減されるが,トルクが大きくなるため,使用機器への負荷は増大すると考えられる.
図4. スラスト Fz およびトルク M

事業内容についての問い合わせ先

所属機関名 東京大学(トウキョウダイガク)
住   所 〒113-8656文京区本郷7−3−1
申 請 者 教授 杉田直彦(スギタナオヒコ)
担当部署 大学院工学系研究科機械工学専攻
E-mail: sugi at mfg.t.u-tokyo.ac.jp