補助事業の概要

事業の目的 部分安定化ジルコニア(PSZ)などのセラミックスは,近年,その強度の高さと,優れた光の透過性による審美性から,生体用インプラントとしての需要が高まっている.その製造工程は①原料の調合②成形③焼成④研削・接合⑤検査となるが,セラミックスは焼成の過程で体積変化を起こすため,精密な形状を創製するためには焼成後の加工が必要となる.しかしながら,焼成後のセラミックスに対する従来の加工技術は,研削・砥粒加工が中心であり,自由形状の創出が困難であった.したがって,本研究では工具加熱による熱援用切削加工を行うことによって高能率・高精度を実現する加工法の確立を目指す.
実施内容 部分安定化ジルコニア(Y-TZP)の除去領域のみを選択的に加熱し,切削する方法として高温に加熱した工具を用いた加工法を提案した.高温工具を用いる加工法は,主に熱援用加工(TAM)における被削材加熱系の簡素化をもたらすと考えられる.例えばレーザー援用切削では工具制御とは独立して熱源(レーザースポット)の位置制御を行う必要があるが,高温工具を利用する加工法では工具制御のみで良い.本研究では工具を加熱する手段として誘導加熱を利用した.

誘導加熱とは高周波電流が流れるコイルから発せられる高周波磁場を導電性材料に印加することにより導電性材料中に渦電流を発生させ自己発熱させる方法である.一般的には,ろう付け,焼き入れに用いられている.被削材であるY-TZPが常温では非導電性であり,工具のみを選択的に加熱可能なこと,及びコイルへの電流を制御することにより,単純なシステムでの温度制御が可能であることの2点から誘導加熱を採用した.誘導加熱を利用したTAM実験系を図1に示す.コイル中に配置されている工具が高周波磁場により加熱される.工具は加工中常にコイル中にあり,切削はコイル下端から出た工具先端部で行われる.

実験結果

実験条件 表に示す加工条件において,提案手法の有効性を評価した.

切削抵抗 加工時に収集した切削力のデータを用いて比切削抵抗を算出した.比切削抵抗を図に示す.グラフは横軸に切り込み深さ,縦軸に比切削抵抗をとったものである.グラフから切り込み深さが15 μm 以下の時には提案方法において,従来方法で加工した場合と比較して比切削抵抗が小さくなっていることが分かる.特に切り込み深さが5 μm程度の場合では,比切削抵抗が50%以上減少している.異なる切り込み深さでは工具から被削材への熱伝導も異なり,工具先端部付近の被削材温度も異なると考えられる.これがグラフに示された比切削抵抗の挙動の原因であると考えられるが,今後詳細な考察が必要である.

表面あらさ 図3に従来方法及び高温工具を用いた提案方法それぞれによる加工溝写真を示す.これらは,3Dレーザー顕微鏡(Keyence VK9500)を用いて取得した.写真は全加工長20mmのうち加工開始点から距離約0 mm, 10 mm, 20 mmの位置の溝を示している.従来方法で加工した場合,溝幅より大きな大規模クラックが多数生じているのに対し,提案方法で加工した場合は大規模クラック発生数が0であった.これは高温工具の熱が被削材に伝導し被削材の軟化を引き起こすことによりクラックの発生が抑制されたからであると考えられる.

さらに加工溝底面の表面粗さを,3Dレーザー顕微鏡を用いて測定した.顕微鏡視野の制限から,表面粗さ測定距離は200 μm とした.測定点は加工開始点から3 mm, 6 mm, 9 mm, 12 mm, 15 mm, 18 mmの距離にある合計6点であり,これらを平均した値を溝の表面粗さとした.図4に従来方法,提案方法でそれぞれ生成した加工溝底面の表面粗さを示す.高温工具を用いて生成した溝においてRaで72.6%, Ryで55.4%, Rzで49.7%それぞれ表面粗さが減尐した.

工具摩耗 図5に切り込み深さ15 μm で20 mmの長さを加工後の工具すくい面先端部を示す.従来方法での加工に用いた工具先端部に欠損が確認されたのに対し,提案方法による加工では工具欠損は確認されなかった.また大規模クラック周辺に工具材料の破片とみられる物質が観察された.このことから大規模クラックの発生と工具摩耗は密接に関係していると考えられる.

予想される事業実施効果

工具加熱法によるセラミックスの超精密加工の成果である,焼結済のセラミックス素材に対して自由曲面を創製する加工方法により,これまでその場加工が困難であった人工骨や医用材料などのいわゆる生体材料に対して,高精度な加工面を提供することが期待される.

事業内容についての問い合わせ先

所属機関名 東京大学(トウキョウダイガク)
住   所 〒113-8656文京区本郷7−3−1
申 請 者 准教授 杉田直彦(スギタナオヒコ)
担当部署 大学院工学系研究科機械工学専攻
E-mail: sugi at mfg.t.u-tokyo.ac.jp